民法第609条
耕作又は牧畜を目的とする土地の賃借人は、不可抗力によって賃料より少ない収益を得たときは、その収益の額に至るまで、賃料の減額を請求することができる。
平成29年改正前民法第606条
収益を目的とする土地の賃借人は、不可抗力によって賃料より少ない収益を得たときは、その収益の額に至るまで、賃料の減額を請求することができる。ただし、宅地の賃貸借については、この限りでない。

条文の趣旨と解説

平成29年民法(債権関係)改正について

改正前609条は、宅地の賃貸借を除き、収益を目的とする土地の賃貸借に関し、不可抗力によって賃料より収益が少なかったときには、賃料減額を請求できると規定していました。

この規定に対しては、農地法20条(借賃等の増額又は減額の請求権)の規定によって実質的に機能を失っているとの指摘がされていました。また、収益を目的とする賃貸借では、収益が上がるかどうかは本来賃借人がリスクとして負担すべきであり、収益が少なかったことのみをもって賃料の減額請求を認めるのは相当でないとの批判がありました。そこで、改正の過程においては、改正前609条及び610条を削除するという提案がされていました(『民法(債権関係)の改正に関する中間試案の補足説明』)

しかし、農地法20条と改正前609条及び610条では適用局面が異なる、農地及び採草放牧地の賃借人を保護する観点からは改正前609条及び610条は維持すべきである、との意見が出されました(法制審議会民法(債権関係)部会第94回会議議事録)。

もっとも、収益を目的とする賃貸借の全ての事例に当てはまるようなルールとして存続させることは適切でないとの指摘も踏まえ、改正前609条の規律は、「耕作又は牧畜を目的とする土地」の賃貸借に限定して、規律が維持されることとされました(部会資料84-3)。

条文の位置付け