- 民法第621条
- 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
- 平成29年改正前民法第621条
- 第600条の規定は、賃貸借について準用する。
- 平成29年改正前民法第618条
- 第594条第1項、第597条第1項及び第598条の規定は、賃貸借について準用する。
- 平成29年改正前民法第598条
- 借主は、借用物を原状に復して、これに附属させたものを収去することができる。
条文の趣旨と解説
平成29年民法(債権関係)改正前は、原状回復義務については、改正前616条が準用する改正前598条において「原状に復して」と簡略な規定を置くのみでした。
一般的な解釈により、賃貸借契約が終了した場合における原状回復義務については、賃借人が賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷については,賃借人が原状回復義務を負うのが原則であるとされていました。他方、賃借物の損傷が賃借人の帰責事由によらないものである場合には、賃借人は原状回復義務を負わないと解されていました。
本条は、このような一般的理解を明文化したものです。
通常損耗等
判例は、通常損耗の原状回復義務につき、「建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから、賃借人に同義務が認められるためには、少なくとも、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されていることが必要である」(最高裁平成17年12月16日第二小法廷判決)と判示し、原則として賃借物に生じた通常損耗については、賃借人は回復する義務を負わないとしています。
本条では、このような判例法理が明文化されています。
条文の位置付け
- 民法
- 債権
- 契約
- 賃貸借
- 民法第601条 – 賃貸借
- 民法第602条 – 短期賃貸借
- 民法第603条 – 短期賃貸借の更新
- 民法第604条 – 賃貸借の存続期間
- 民法第605条 – 不動産賃貸借の対抗力
- 民法第605条の2 – 不動産の賃貸人たる地位の移転
- 民法第605条の3 – 合意による不動産の賃貸人たる地位の移転
- 民法第605条の4 – 不動産の賃借人による妨害の停止の請求等
- 民法第606条 – 賃貸人による修繕等
- 民法第607条 – 賃借人の意思に反する保存行為
- 民法第607条の2 – 賃借人による修繕
- 民法第608条 – 賃借人による償還請求
- 民法第609条 – 減収による賃料の減額請求
- 民法第610条 – 減収による解除
- 民法第611条 – 賃借物の一部滅失等による賃料の減額等
- 民法第612条 – 賃借権の譲渡及び転貸の制限
- 民法第613条 – 転貸の効果
- 民法第614条 – 賃料の支払時期
- 民法第615条 – 賃借人の通知義務
- 民法第616条 – 賃借人による使用及び収益
- 民法第616条の2 – 賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了
- 民法第617条 – 期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ
- 民法第618条 – 期間の定めのある賃貸借の解約をする権利の留保
- 民法第619条 – 賃貸借の更新の推定等
- 民法第620条 – 賃貸借の解除の効力
- 民法第621条 – 賃借人の原状回復義務
- 民法第622条 – 使用貸借の規定の準用
- 民法第622条の2 – 敷金
- 賃貸借
- 契約
- 債権